フィリピン人を凌ぐ見通しの甘さ! 八方塞がりとはこのことか?
バスもダメ、飛行機もダメ、旅行代理店もお手上げ。
わたしはダバオに行く予定で、マニラにやってきたのだが、どこに向かえば良いのかも分からない。
とりあえず一服して考えるかと、タバコをふかしていると、一台の原チャリがスーッと現れて、わたしの前で止まる。
そして、わたしに話しかける。
「ボス ここはタバコ吸っちゃダメなんですよ」
ボスって… オレのことか? 周りに人いないし、タバコ吸ってるし…
わたしに話しかけたおっさんを良く見てみる。
クビからIDみたいなのをぶら下げている。
「マニラは公共の場所が禁煙って知らない?
とりあえずID見せて?
今からわたしはチケットを切りますので、後日これを持ってシティホールに行って支払ってください」
どうやったらダバオに行けるのかを考えていたけど、急にヤバイ状況になったようだ。
それも自ら、ヤバい状況を作ったようだ。
オッさん本物かよ?
ヤベ、やっちまった。
考え事をしていたとは言え、あまりに不用心だった。
過去かつて無いくらいにPO(ポ)をつけた丁寧語のタガログ語で、ひたすら謝り倒す。
だって、カネ無いから、罰金なんて支払えない。
オッさんは、わたしの話には耳を貸さず、自分の言いたいことばかりを矢継ぎ早に話す。
スマホを開き「ここに書いてある通り、最初は警告で3,000ペソ。
また捕まったら、次は4,000ペソ。
その次は5,000ペソって増えていくから」
などと言いながら、白バイ隊員がキップを切る様に、わたしのIDを見ながら、チケットに記入していく。
困ったと思いながらも、半分諦めつつ、オッさんに話しかけてみる。
わたし「この罰金を支払わなかったら、どうなりますか?」
オッさんは手錠をかけられたポーズを見せる。
しょうがない、一か八かのウソをついてみるか…。
もし、失敗して、彼の逆鱗に触れたら、どうなってしまうか分からないけど、罰金を支払えなければ逮捕と言うなら、早かれ遅かれだなと決意して、オッさんにウソの話しをしてみる。
「ボス わたしは、明日の夜に、日本に帰る予定なんです。
日本に帰った後に、どうやって支払えば良いですか?」
オッさんの手が止まって、わたしの方を見る。
「そんなの知らないよ。わたしの仕事じゃない」
「わかった。今回は見逃してやるから、わたしにジョリビを奢りなさい。
いくらなら今払えるんだ?」
と話しが切り替わり、罰金のチケットから、オッさんへの裏金で話しを済ませる雰囲気に流れが変わった。
わたしはポケットから小銭入れを取り出す。
電車やバス、トライシクルに乗るのに、大きなお金が入っている財布を取り出すのは面倒だから、わたしは小銭用の財布を持って歩いている。
小銭入れに入っている小さな紙幣なら、全部取られても良いと思っていたが、小銭入れの中にはコインしか入っていなかった。
とりあえず、小銭入れの中身を手に出して、オッさんに見せる。
わたし「これで全部です」
オッさん「シノガリン カ!」(オマエ ウソつき!)
そりゃそうだ。
マニラをスーツケース持って歩いている外国人が、コインしか持っていないなんて、信じられるわけが無い。
たどたどしいタガログ語を使って、本当であると訴えるわたし。
「カガビ カサマ マッサージ ババエ(昨日の夜、マッサージ嬢と一緒にいました)
シヤ アリス タポス ワラ ナ ウォレット コ(彼女が去ったあと、わたしの財布はもうないです」
オッさんは、きっとわたしの言い訳がバカバカしいと思ったのかもしれないが、呆れて笑っていた。
オッさん「オマエはジョリビを買うカネも無いのに、タバコを買うカネはあるのか?」
と、途中まで書いていたペナルティのチケットを破りながら、わたしに聞いてきた。
わたし「ボス、ジョリビ、ワンハンドレッド プラス(ジョリビは100ペソ以上します)
ヨシ サイース ラン(タバコは6ペソだけ)
もうカネにならないと諦めたのか、オッさんは出していた書類を片付けて、バイクに乗って何も言わずに去っていった。
https://overseas.blogmura.com/philippine/ranking.html?p_cid=10996612
こうして、わたしは不必要に発生したピンチをくぐり抜ける。
だけども、本当のピンチは何も解決していない。
携帯をチェックすると、ダバオのオバさんからメッセージが来ている。
Philtranco(ダバオ直通の路線を持つバス会社)は、パサイの他にクバオにもあるから、そこに行きなさい。
と書いてある。
ネットで調べると、たしかにアドレスは出てくる。
でも、バクラランがSOLDOUTなのに、クバオはバスがあるとか、そんなの無さそうな気がするけど…
でも、ここはフィリピン。
そんな奇跡があるかもしれない。
どうせ、どこに行くべきか悩んでいたので、クバオに行ってみよう。
というわけで、電車に揺られ、クバオに到着した。
グーグルマップを見ながら、会社がありそうなところをウロウロ歩くのだけど、地図が指し示す場所はガソリンスタンドになっている。
道路に座っているお兄ちゃんに「Philtrancoはどこ?」と聞いてみる。
お兄ちゃんは「パサイだよ」と返答する。
それなら、さっき朝一番に行ってきた。
わたし「ここのPhiltrancoは? クローズしたの?」
お兄ちゃん「そうだよ。パサイしか無いよ」
マジか…
遠い昔の情報が、ネットから削除されずに掲載されていて、それを鵜呑みにして電車賃払って、やってきたわけか…。
マニラの中心エリアを走る電車は、LRT1、LRT2、MRTとあり、東京で言うとこの山手線の様に、ぐるっと三角形に一周している。
私は午前中をかけて、全ての電車に乗り、ほぼ一周した。
だけども、何も話しが進んでいない。
そんな途方に暮れている私の目の前に、バスターミナルが現れる。
クバオは、パサイと同じ様に、町の中に多くのバスターミナルが点在している。
行き先を見ると【レガスピ】と書いてある。
地図を見ると、ルソン島の南の町で、海を渡れば、サマール島やレイテ島が目と鼻の先だ。
これ乗ろう!
あとは現地行けば、どうにかなるだろう。
マニラをウロチョロしても拉致があかない。
ダバオは、マニラから1500キロも離れている。
少しでも前に進んだ方が良いだろうという安易な発想で、チケット売り場に行く。
レガスピ行きで取れたチケットは午後9時の出発。
夜通し走ってもらう方が、宿泊代を浮かせられるので、ありがたい。
バス代だけで1250ペソもする。
予算的に大丈夫か心配だが、そのあといくらかかるのか見当もつかないので、心配しても意味が無い。
というわけで、正午から21時の出発まで、カネを使わずに、暑さから身を隠し、時間を潰さなければならない。
私が向かったのは、恋人達の溢れるホテルSOGO。
クバオ店もたくさんの家族や恋人達が、ウェイティングエリアで部屋が準備されるのを待っている。
私はチェックインしないくせに、ウェイティングエリアでウェイティングする。
ホテルSOGOのウェイティングエリアは、エアコンが効いていて涼しい。
フィリピン人は、人に対して、それが客であっても、興味関心が無いので、私がチェックインを待っていないのに、ウェイティングエリアにいることに気づかない。
気づいているのかもしれないが、一切気にしない。
私は大きなスーツケースを持っていたので、見た目には完全に旅行者で、ウェイティングエリアで待っている姿が不自然じゃ無い。
1時間前にバスターミナルに向かった。
30分前には全ての客が乗車していたからなのか、定刻よりだいぶ早く20:40に出発する。
フィリピンで定刻より早く出発する経験を始めてした。
バスは料金が高いだけあって、座席が広く作られており、新幹線のグリーン車みたいだ。
車内にはトイレまでついている。
だからなのか、約12時間の移動中、運転手が立ち小便をする以外の休憩が無い。
翌朝午前9時にレガスピに到着する。
SMレガスピの前がバスターミナルになっていて、そこで降ろされる。
私は朝、決まってうんこをするので、SMに入って用を足したかったが、SMのオープンは午前10時。
バスターミナルのトイレをのぞいてみるも、まるで人が殺された現場みたいになっていて、ちょっとうんこがへっこんでしまう。
バスターミナルで、私がサマール島に行きたいと聞き込みをすると、マトノグ港という場所から船が出ていると情報をゲットする。
1時間ほど待ち、ちょうどSMのオープン時間である午前10時にマトノグ港へ向けてバスが出発。
なんだけど、バスはマトノグ港に行かない様で、ターミナルでも無ければ、町でも無い、見渡す限り、サリサリストアが2軒あるだけの道路沿いで降ろされた。
マトノグ港に行く人は、その場所で降ろされ乗り換えるらしい。
アマゾン川に入った家畜がピラニアに食いつかれるかのごとく、わたしがバスを降りると、ワラワラとトライシクルのお兄ちゃんが営業にやってくる。
チョイスとしては2つ。
トライシクルに乗るか、ジープを待つか。
ジープは数時間に1本、いつ来るかは分からないとのこと。
ジープがほぼ来ないという言葉が、決してウソでは無いだろうと思うくらいに、辺鄙な場所なので、チョイスとしてはトライシクル1択だ。
レガスピのバスターミナルから乗ったバス代金が160ペソと高額だったのだが、このトライシクルはさらに高額な200ペソとか言っている。
わたしは交通費が足りなくなるのを恐れて食事も取れないでいるというのに、200ペソの出費は大きい。
でも、港までは、18キロほどあると言う。
トライシクルでも30分から40分くらいはかかる距離。
軽く山道になっている。
さらに、田舎なので、圏外でグーグルマップが使えず、歩きの選択肢ができない。
そんな状況なので、トライシクルの兄ちゃんは強気な交渉で、とても値引きには応じなそうだ。
泣く泣く200ペソを支払い、トライシクルに乗せてもらう事にする。
そして、遂にわたしは、ルソン島の最南端の町であるマトノグ港に辿りついた。
さて、ここまでの流れを振り返ってみよう。
5月4日(土) 22:00 家を出発
5日(日) 0:00 インファンタからバスが出発。
5日(日) 4:30 オルティガスに到着
5日(日) 5:50 バクララン到着
5日(日) 9:00 ねもとトラベル
5日(日) 12:00 クバオ到着
5日(日) 20:30 クバオからバスが出発
6日(月) 9:00 レガスピに到着
6日(月) 10:00 レガスピからバスが出発
6日(月) 13:30 マトノグ港に到着
お金の方
5日 0:00 バス 245ペソ
5日 5:30 MRT 15ペソ
5日 9:30 LRT1 20ペソ LRT2 20ペソ
5日 20:30 バス 1,250ペソ
6日 バス160ペソ トライ200ペソ
小計 1,910ペソ
残り手持ち金 約1,800ペソ
こうして振り返ると旅が終わった気もするのだけど、まだルソン島も出ていないし、インファンタから数えて700キロほど移動しただけだ。
あと約1,000キロほど離れているのだけど大丈夫だろうか?
マトノグ港から出発するフェリーに乗るチケット売り場に並ぶ。
わたしの前には、10人ほどが列をなしている。
1時間ほど並ぶが、わたしは変わらす10番目。
前が一向に進まない。
1時間半ほど並んだら、わたしの順番は8番目になった。
でも、先頭は変わらない。
単純にギブアップした人間の数だけ前に進む。
2時間ほど経過した時、わたしの順番は5番目になっていた。
でも、先頭は変わっていない。
ギブアップする人間が、また現れただけのこと。
2時間半ほど並んだ時、遂にその時がやってきた。
ガマン大会で負けるわけにはイカンと、根性で直射日光を浴びながら立ち続けてきたけども、遂にわたしの心が折れた。
2時間半ほど並んでも、先頭の人間が全く変わらなかったからだ。
13:30から並び続けて、すでに16:00。
いったい、何がどうなっているのかも不明なままだ。
いったい、どうすれば?
わたしは、チケット売り場の近くで、タバコをふかしているチンピラの様な男に話しかける。
わたし「2時間半並んだけど、列が進まないのは何故?」
チンピラ「チケットがないから」
わたし「どうしたら、チケットとれる?」
チンピラ「500ペソで、チケット取ってやるよ」
わたし「考えてみる」
このチンピラの他にも何人か話しを聞いてみたのだが、どうやらフェリーにはバスも乗ることが出来るため、バス会社が事前に乗客数分のチケットを抑えているらしい。
個人で乗る分にはチケットがまわらず、チケット売り場に並んでも購入できないまま待ち続けている状態なのだ。
フェリーに乗る客をターゲットにした土産物屋や飲食店はたくさんある。
だけど、それだけ。
見渡す限り、わたしが座るスペースさえ見つけられない。
今更、引き返そうにも、有り金から計算すると、引き返す事もできない。
いったい、どうすれば?